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2 原子軌道の決定(1)-1電子系-

原子は原子核および電子から構成され、電子は原子核の周りを回転している。この軌道にいる電子はエネルギー授受のない一種の定常状態にあるとみなされ、電子の動き(原子軌道)は状態波動関数を用いた波動方程式から決められる。 しかし、波動方程式だけから原子軌道を決めるのは難しい。そこで登場するのが、作用変数(または作用積分)であり、不確定原理である。ここでは、作用変数および不確定性原理を用いて原子軌道が如何に決められるかについて述べる。


作用変数を用いたSommerfeldの量子化条件

光のエネルギーは連続した値ではなく

(nは整数)で示されるの飛び飛びの値をとります(Plankの光量子仮説)。Sommerefeldは、この光量子説に作用変数を用いて理論的根拠を与えました。
運動量を関数p(q,E)で定義され(q:位置、E:エネルギー)、かつこの軌道が閉じている場合、作用変数 J

周回積分で与えられます。この作用変数 Jは、エネルギーが変わらないとき、ある一定の値をとります(作用変数の断熱不変性)。

Sommerfeldは, このようなJはエネルギーEが異なると違う値をとるが、その値は連続し変化するというより、不連続に変化する、即ち、

J=nh(n:正整数)
で表されると考えた。これをSommerfeldの量子化条件という。

光のエネルギーはPlankの光粒子仮説から、E=n(h/2π)ωで与えられる。 一方、光の波束は調和振動子で表される。この調和振動子のJの作用積分はJ=E(2π)/ωで与えられる。J=nhとなる。

上記量子化条件がまさしく古典力学と量子力学を分ける接点となるものです。ここで敢えて注意したいことは、エネルギー離散性は量子化条件を満たす閉回路積分が成立するといえる状態関数および状態方程式の想定ぬきに議論できない点です(あらゆる物理現象に適用できるわけではありません)。これを無視すると、量子力学やたらが難しくなります。すくなくともCrystalParkで述べる量子化学では想定抜きの考えを採用しません。



不確定性原理
定常状態の波動方程式は状態関数をΨ、固有値をEとしたとき、HΨ=EΨで表される。Hはハミルトニアン演算子である。ここでの演算子とは波動関数に加える物理的に意味のある量を求めるための演算操作をいう。例えば、前の節で述べたように、2次微分演算子は運動エネルギーに比例する。このような演算子は波動関数を取り扱う場合には不可欠である。

粒子を波束としてみる場合、物理的に意味ある量は、実数であり、次の式で示す演算子PQからの期待値<PQ>として求められます。

*は共役関数であることを示す。

物理的に意味ある量はエネルギーに限らず、運動量、位置、角運動量などがある。これら物理量はそれらに相当する演算子をもつ。
演算子同士の加減演算操作(例えば二つのポテンシャルの加算)はその取り扱いに特別な注意を必要としないが、演算子同士の乗算操作は注意を必要とする。

角運動量は運動量x距離で表される。1次元空間での運動量x距離の演算子表現はこの順序で記すと

となる。状態関数を加えた操作では

となるが、運動量と距離の掛け算の順序を逆にすると
 

となり、演算順序を取り違えると同じ結果がえられない。この演算操作は

[p,x]=px-xp

が0にならないことを意味します。 これは、二つの演算子は可換でないという。また、これは運動量と位置は同時に観測できない(可観測でない)ということを意味し、不確定性原理として知られています。もちろん、粒子を波束として見た場合という条件がつく事はいうまでもないことです。また、運動量は質量x速度で定義されています。質点系で有効な質量はここでは問題とされないとしています。私たちの波動関数を用いて解析する物理現象は可観測であるものが対象となります。



Sommerfeldの量子化条件を用いた原子軌道表現
 
核電荷1の電荷1の原子核の周りを1個の電子が平面上を円周運動する場合を見る。この電子の波束を調べてみよう。
極座標を用いたこの電子の二つの運動量PrおよびPθ

で与えられる。この電子の動きは定常状態で示されるので、上でのべた量子化条件から


となる。pθは一定とするとpθ=(h/2π)nθとなる。この電子のもつエネルギーは

で与えられる。ここでmは電子の質量、εは真空誘電率である。prに上記式から決定される関数を代入して積分するとPrの量子化条件が決定され、Eについて結果のみを記述すると、

であり、電子のもつエネルギーEは二つのnは整数であるので、これら二つの整数が異なる飛び飛びの値をとる。すなわち、状態波動方程式から、Eが異なるいくつかの波動関数が決められる。このように作用変数は状態方程式から状態関数を決める場合に決定的といってもよいくらい重要な役割を演じます。

水素を例にとると、上記の手続きで原子軌道に相当する解が得られます。
上記の関係を簡略化してnθ=0としますと、E=-13.6/n2(eV)となり、n=1としたときの水素のイオン化ポテンシャルと見事に一致する。n=2はE=-3.4eVであり、水素上の電子はこれら飛び飛びのエネルギー準位に存在できる。マイナスの意味はこの電子はなにもつながりをもたない状態より安定していることを示している。



不確定原理を考慮した原子軌道
 
上記例を3次元に拡張する。
定常状態では、軌道上の電子の波束を極座標で表現すると、波動関数Ψを用いて次のように波動方程式が成り立つ。

ここで、L

である。

角運動量は運動量x距離で表され、これらのx,y,z成分は


となります。各L成分を調べると

の関係が成立する。これら関係は3個の角運動量成分は可換ではないこと、同時にこれらを観測することはできないことを意味する。ところが


とすると、

の交換可能(可換)関係が成立します。このL2は極座標表記のL2に相当する。L2とLiとは可換です。これはLiとL2は同時に観測できることを意味する。Sommerfeldの量子化条件をz軸でのLzを量子化およびL2値の量子化に適用できる(3次元軌道の量子化ができる)。Prの量子化の手順は上で述べた方法と同じです。これらについての詳しい計算は参考書をみてください。

結果のみを述べると、原子軌道は、主量子数(Prから)、方位量子数(L2から)、磁気量子数(Lzから)をもつ軌道として定義できることです。
 

角運動量Lはpとrで作られる面に対して垂直方向である。普通これら二つの物理量はベクトルで表示される。したがって、これらベクトルの外積で示される角運動量ベクトルは方向性をもちます。外積ベクトルの内積はスカラーです。L2は方向性をもちません。このスカラー性は電子の回転方向は定義できないこと、L2から定義される面は裏表を持たないことを意味します。裏表のない面をひっくりかえし見ても同じはずです。

方位量子数1の原子軌道P-1、P1は、原子軌道P0をz軸に取った場合、複素数で表されます。原子軌道をΦ(r,θ、φ)で表したとき、運動量pφ電子のxyz空間での運動方向を指定したことにはなりません。複素数の虚数の部分は二つの位相演算操作で取り除けます。その一つが原子軌道Px、もう一つを原子軌道Pyとなります。これが私たちが眼にする原子軌道です。しかし、Px、Py原子軌道における電子運動方向は問題になりません。電子回転方向を考慮することなく考慮することなく得られます。作られる原子軌道を平面としてみた場合、その平面が磁場に対して作る角度に対してZeeman効果が効いてきます。
 

余談:都合の良い時は波束の性質を利用し、都合がわるくなると質点系の特性を利用する。量子力学を用いて解析する場合、波束なら波束の見方の長所短所をわきまえた上で使ってほしいと思うのは小生だけではないでしょう。これが量子力学をむずかしいものとする原因の一つでしょう。



原子軌道の概略図
 
 

 

磁気量子数の絶対値|m|を一定とすると,方位量子数 l の増加とともに,軌道胞の数が 規則的に増加する. 

Journal of Chemical Software, Vol.3, No.1, p.35 水素原子の原子軌道の可視化
時田澄男 ,渡部智博,木戸冬子,前川 仁,下沢 隆
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