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1 ドブロイの粒子波動性と波動関数

物質は原子から構成され、原子は原子核と電子から成り立っています。電子は原子核の周回軌道をもつ複数の原子軌道に存在できます。これら原子軌道の特性、原子軌道の離散的なエネルギー準位の存在などを理解するには、粒子のもつ波動的性質を理解するが大切です。ここではまず、物質粒子の波動性とはどのようなものか、そこから導き出される波動関数について述べます。軌道のエネルギー準位の離散性については次の節でのべます。


ドブロイの粒子波動性

私たちが観察する波は、音声、電波にしろ波動が固まりとしてやってくるものです。このような空間的にまとまった波を以降波束といいます。
波束が全体として動く速度(群速度)vgは、

(ω:角周波数、k:波数(2π/波長))


と表されます。 波束が粒子、波束の動く道筋が古典粒子の軌道であるとすると、波束の群速度vgは古典粒子の速度vに等しいとなり、質量mの粒子の速度は

が成り立ちます。Plankの光粒子説(E=hω/2π)から、粒子の粒子的性質(運動量 p)と波動的性質(波長 λ)との間で次の関係があると言えます(deBroglie)。


これは、物質粒子を粒子の運動に沿って動く一種の波束としてみることができるということを示します。以降この関係を利用します。

粒子の波動関数表示
 

粒子を波束としてみる場合、その波束の形は、運動量P、位置r、粒子のもつエネルギーE、時間の波動関数として得られます。
 
 

光の波形は、時間と位置の変数をもちいて

と表されます。これ以降上記関数を光の波動関数と言います。ドブロイの関係およびプランクの光粒子説での
の関係を光の波動関数に当てはめると、次のような光の波動関数に相当する粒子の波動関数が得られます。
上に示した粒子の波束を示す波動関数をこれ以降単に波動関数と呼びます。




波動関数を用いた粒子の軌跡
 
粒子の動き(軌跡)は、粒子の運動量、位置初期値、さらに、粒子のもつ運動エネルギーT(px,py,pz)とポテンシャルエネルギ-V(x,y,z)およびH=T+Vから決まります。質点の観点から粒子を見る古典力学では、粒子の運動軌跡は以下のニュートン方程式を解けばよい。

波束の観点から粒子を捉えた場合、波束の軌跡は、以下の


(t:時間)

波動方程式を解いて決めていきます。粒子のもつ運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和で表される上記方程式の左辺のカッコ内の式をハミルトン演算子H(x,y,z,px,py,pz)と言います。上記の方程式をSchrodinger方程式と言います。

時間によって粒子の全エネルギーEが変化しない場合、すなわち、時間とともにE=T+Vが変化しない場合、u(x,y,z,t)=Ψ(x,y,z)φ(t)(φ(t)=constant)と表され、上記式は




と示される。時間とともにEが変化しない状態を定常状態といい、Ψ状態波動関数または単に状態関数といいます。上記方程式から求められる波動関数を固有波動関数、エネルギーEを数学的には固有値と言います。上記方程式はEを勝手に決めてやれば解けるというものではなく、左辺の式から取り得るEの値は必然的に決まります。これについては次の節で述べます。上記状態波動方程式から複数の固有値および固有関数が得られます。
原子核の周りを回転している電子の軌跡を波束の観点からみると、上の状態波動方程式を用いて、原子軌道が得られます。複数の固有値は各々異なる原子軌道のエネルギー準位に相当します(次の節で述べます)。各固有関数からそれらに相当する原子軌道が決められます。ただし、注意すべきことは、上記方程式はエネルギー方程式であって運動方程式ではないということです。

上記波動関数を用いての原子軌道の定義から、種類の異なる原子軌道は各々エネルギー準位が異なることが簡単に確かめられます。しかし、この波動関数を用いての定義はよいことばかりではありません。

光と粒子の違いは光の動く道筋は等方的に取り扱えるので、光の運動量は正数であらわされ、光の波動関数では判定問題は生じない。これに反し、粒子の動く道筋は必ずしも等方的とは取り扱えない(ポテンシャルVは等方的でない)から、粒子の運動方向はプラスマイナスをもつ実数で表され、運動量の正負問題、別な言葉でいうと、方向問題が生じる。しかし、波動方程式から運動量の正負を判定することは難しい。
幸いなことにこれまでの化学はエネルギー授受の観点から主に電子のエネルギー準位だけを問題にしますので、この判定に絡む問題を量子化学では意識しなくてすみます。したがって、波動関数を用いた解析は量子化学では有効です。しかし、すべての自然現象の解析にこの波動関数を用いての解析が適用できるわけではなく、この実数であることが直に効いてくるような現象を定常状態波動関数を用いて解析することはあまり得意でありません(途端にむずかしくなります)。この例を以下のべます。
 

上記の状態波動方程式をV=0とした一次元方程式から見てみます。一次元2次微分方程式で示される状態波動関数の解は


から

したがって、A=(2m)0.5(2π/h)Eより、固有関数は

(C=定数)で与えられます。Ψ(x)はEを含む関数として定義されます。しかし、運動量が±をもつということは、運動量として絶対値のみが意味ある量として、状態波動方程式から導かれるが、運動の向きは上記方程式からは定義できないということです((ih/2π)▽の値は±で変わる)。状態波動方程式は±の記号を除き、

で示されます。すなわち、

粒子の運動方向は上記定常状態波動方程式から決定できない
といえます。上記性質は状態波動方程式が適用できる原子軌道でも言えます。したがって、状態波動関数を用いて物質の物理的性質の解明は、電子の運動方向が問題にならない形式で求めるほうが無難であるといえます。
原子は電子と原子核から構成され電子は原子核の周りの原子軌道上に在る。原子軌道は3次元状態波動関数を用いて定義できます。ところが、上で状態方程式から電子の運動方向性が決まらないと述べました。上記方程式から、原子軌道を求めることはできるが軌道にある電子の回転方向は決定できないことは次のような困った問題を作りだします。原子の多くは磁性をもちます。磁界は、フレミングの法則を持ち出すまでもなく、電子運動の方向性にも影響を与えます。
原子に属する電子運動方向は磁場によって影響されないのか?
どうして運動方向性は決まるのか?
原子軌道上の電子はどのように原子の磁性と関係づけられるのか?
の問題が生じます。実は、この運動方向性と状態方程式の解をいかに合致させるかが、さらに、上記状態方程式がもつ力学的エネルギー方程式と後で述べるであろう電磁場方程式とをいかに合致させるかが、量子力学での大きな問題、ひいては量子化学の問題の一つなのです。

磁性は原子のもつ軌道上電子とフレミングの法則で関連を持たせられます。しかし、多くの参考書では、物質磁性をこれら原子のもつ電子のスピンと関連付けており、電子スピンは電子のもつ自己回転で説明されている(これについては後でのべます)。また、上で述べた電子の運動方向から生じる磁性の問題すべて、電子のもつ自己回転問題として吸収されています。電子の周回運動はアンぺールの法則をもちだすまでもなく磁界をつくります。なぜ公転問題が自己回転と等価である問題として捉えることができるのか?どうやってそれが可能とされるのか?知りたい位です。これは原子軌道に関する驚くべき考えで、電磁気学の基本を見事なまでに無視しております。これが本当であるなら、原子オーダーの大きさのマイクロモーターなど簡単に実現できるはずです。実際には、そのような磁性を利用したモーターができるなどという話は聞いたことがない。では、なぜこのような問題が生じたか?その原因は、実験事実を解釈する上で波動方程式から電子粒子の運動方向性を導き出せるとしたことにあります。そのキッカケをつくったのが磁気量子数(次にのべる)です。

粒子の波束表現のもつ基本的性質を無視した理論的推定は私たちのもっとも誤りやすいものの一つといえるでしょう。スピンを用いた説明が多くの参考書で記述されています。その難しさは小生の手に余るものです。しかし、多くの学者先生方は電子スピンを上手に使っておられます。したがって、多数決で科学の定義が決定されるとしたら、現在のスピン定義に疑問があるとの解釈は否決されるでしょう。しかし、科学は使えて価値がでる学問であって知識でナンボの世界ではありません。量子力学はこう考えると物性および量子化学が理解しやすくなる観点から以下述べます。真偽性は貴方方が判断してください。

余談:

頭の弱い小生は、ファインマン先生の物理学(量子力学)のΨ(x,y,z)=Ψ(r,θ,φ)(極座標定義)から原子軌道の状態関数を求める見事な手続きに感心しました。詳しくは本を参照してください。次節で述べるが、原子軌道は、主量子数、方位量子数、磁気量子数などから定義されます。ところが、よせばよいのに、小生は磁気量子数がプラスマイナスの値が取れることから、電子の運動方向は波動方程式から定義できるとかんげーたのです。磁気という言葉はどうしても電子の運動方向を想定しないと出てきません。これに見事に引っかかりました。でも、一次元で不可能なことが3次元ではできるとは! 次元数はそれ自体物理的意味をもつのだとは! あーあー!これでは中学生物理のイロハすら分かっていないといわれてもしょうがありません。でも、実は、このような超近視眼的な考えをもつ人は山ほどいます。特に量子化学を職業としている人に多いとは驚きです。このような超近視眼状況に出会ったとき、はじめこの状況が信じられませんでした。安心したと同時にこまったものですというのが正直な感想です。科学からの恩恵に授かりたいだけでは駄目だと思い、この入門書を敢えて作る破目となったのです。
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