ここでは数式を使いません。サブセクションでつかいます。

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1.4.2分子軌道(2)

原子の観点から分子軌道および結晶軌道(以降構造軌道という)を考える場合、

構造軌道はどこでつくられるのか?
どのようにその場所は確保されるか?
構造軌道にどの原子軌道が関与するか?
関与した場合の原子の電子配置に与える影響はどうか?
関与原子軌道が原子に与える影響はどうか?
を明らかにすることが大切です。ここまで分かると原子の立場からの物性評価は容易となります。個々の固体物性については後のセクションで述べます。ここで、分子軌道とは原子間で電子対を形成する軌道、結晶軌道とは電子移動を介して原子同士の結合を可能とする軌道を意味します。

構造軌道はどこで作られるか?

物質の化学的物理的性質は構成原子の他原子および外界との作用により決まります。中性原子のもつ電子配置はそれ自体安定です。しかし、多くの物質内の原子の電子配置は中性原子の電子配置をとっておりません。中性原子の安定な電子配置が物性すべてに直接影響を与えると考えるのはあまりにも虫がよすぎます。物質内で中性原子の電子配置が不安定になるということは、その理由を原子オーダーであきらかにする必要があります(これまで、この配慮が抜けていたと思われる)。この物質内原子の電子配置を可能とする原子軌道として未占有原子軌道という受け口を想定しました。この未占有軌道が化学結合電子(伝導電子を含む)を作り出すのに決定的な役割を演じます。未占有原子軌道は、電子によって占有される最外殻軌道と同じ方位量子数をもつ軌道またはその外側の軌道で、電子によって占有されていない軌道を意味します。
 

最外殻電子 未占有軌道
s電子 p電子
s,p電子 s,p電子
s,d電子 p電子
s,f電子 p電子

どのようにその場所は確保されるか?

原子と原子を結び付ける化学結合にどの未占有軌道が選択されるかは、未占有原子軌道の電気的性質によって決まります。化学結合電子を取り込む以上正電荷特性をもつことが要求されます。原子に属する各未占有軌道の電気的性質はその原子特有な電子配置(占有軌道)によって決定されます。上記表に示す最外殻軌道の電子およびその閉回路が未占有原子軌道の電気的性質を決定します。内殻軌道は遮蔽効果に効いてきます。
 

どの占有原子軌道が結合に関与するか?

未占有軌道が属する原子と属さない原子では対応が異なります。未占有軌道が属する原子では未占有軌道と位相的に独立した軌道が未占有軌道にはいるとは考えにくい(電気的に接触面積が小さいから)。接触面積が大きく取れるs軌道または位相的に独立していない軌道上の電子がこの未占有軌道に入るであろう。属さない原子は一番外側の軌道上の電子がこの未占有軌道にはいることができる(多くは、sp電子)。

どのように関与するか?

いままで述べてきた未占有軌道と化学結合との関係を以下の表に示します。
 

未占有軌道
の電気的特性
原子(未占有軌道側) 電子供給原子
共有結合 電子 電子
錯体結合 なし 電子、電子
イオン結合(陰イオン) 電子 電子
イオン結合(陽イオン) 上記未占有軌道との
オーバーラップ(正)
転移 電子
金属結合 弱い正 転移 電子

それが原子の電子配置にどのような影響をあたえるか?

化学結合が生じたとき、それが原子のもつ電子配置および原子核の有効核電荷に影響があります。
 

未占有軌道
の電気的特性
電子対(未占有軌道内) 有効核電荷の増減
共有結合 あり 増加
錯体結合 あり 減少
イオン結合(陰イオン) あり 増加
イオン結合(陽イオン) 上記特性による(正) なし なし
金属結合 弱い正 なし なし

以下上記について次のサブセクションで説明します。

1.4.2.1未占有軌道の特徴
1.4.2.2未占有占有軌道間の相互作用
1.4.2.3未占有軌道から見た分子軌道
 

余談:量子化学に話を限定します。1個1個の原子を取り上げ物性との関連を明らかにする操作は、原子数数千を超える巨大分子ではまさに気が遠くなるような話で、現実的対応とはいえません。幸いなことに、分子形および結晶形とこれら物質内での電子配置の間には相互関係が成り立ちそうです。そこで、各原子が独自な電子配置を原子軌道という場に求めると同様な考えで、分子または結晶の独自な電子配置構造を構造軌道(分子軌道または結晶軌道)という場に求めても不思議ではありません。この構造軌道に基づく物性評価は取り扱い操作を簡略にします。
量子化学で採用している分子軌道の正当性を主張する現在唯一つの根拠は物質のもつ対称性です。しかし、ここで注意してほしいことは、この対称性は物性面から見た性質であることです。原子軌道には物性でみられるような対称性をすべて満たしておりません。物性を量子化学的評価するということは、これら物性対称性をつくりだす方法を原子オーダーで見つけ出すということと同意義となります。
ところが、物性対称性を満たすため原子の軌道からは想像もできない化学結合角度が現れます(例えばベンゼンで見られる炭素結合角度)。この角度を理解するには、軌道同士の重なりの詳細な検討が要求されます。はじめてみる量子化学ではこの詳細な検討を、とりあえず棚上げして、物性対称性とのつじつま合わせのために混成軌道(原子軌道ではない)という化け物軌道を導入しました。
ザックバランにいうと、原子軌道には見られない対称性を見出すには、一種のカラクリが必要です。種明かしをすると、このカラクリを可能とする方法、それが、混成軌道という化け物軌道です。混成軌道という誠に便利な道具があると、それを利用していろいろな分子の評価が可能となります。この便利さに酔いしれたというか甘えたというか、これが物質特有な電子構造をもたらす因と考えるようになりました。因をたどれば原子軌道に行き着くのがあきらかなのにです。
上の表から明らかなように、未占有軌道が絡んだ軌道として、sp,spd,spfなどの混成軌道が想定できます。これら混成軌道はそれに関与する軌道および未占有軌道と占有軌道との間での重なり具合を適当にとることによっていくらでも結合角など変えられます。実は、化け物軌道は、未占有軌道を介してつくることができます。その実態が判ればもとを辿ることはそんなに難しいことではありません。
ここまでわかると、物性で見られる対称性と原子軌道との関係を明らかにすることは簡単です。原子軌道と物性との接点を分子軌道を求めるという中途半端なことは止めにして、直接物性との接点を原子軌道(原子軌道から求まる分子軌道)に求めることができます。それをベースに物質の対称性を検討すれば、いままで以上に精度のよい評価が可能と思われます。
やっと機能材料を作り出す出発点にたどりつきました。小生はオリエンタルエキスプレスにはなれそうにありません。人間から物性を見るために行う操作と、構成原子から物性を出現させるために行う操作は明らかに違います。量子化学は、この相違を認識して原子の立場から、分子または結晶構造を予測し、それら物質からどのような物性が現れるのかを楽しみにできる(物性評価に貢献できる)学問であると小生は考えております。したがって材料創製のために出発点はあくまで原子軌道に対する考察であります。

余談:以下完全な余談です。物質を電気的性質から分類するとき、よく導電体、絶縁体、半導体という区別を聞きます。その分類の根拠は抵抗率ということで説明しております。でも、ちがった説明も可能です。導電体とは、+-の極性を変えても電気が流れる物質を言います。絶縁体とは電気の極性を変えても電気が流れない物質を言います。半導体とは電気の流れる極性の方向が一方向に限定できる物質を言います。たとえばダイオードです。これは2種類の異なる不純物をいれた物質からできていますが、電気の流れる方向は決まっています。シリコンおよびゲルマニウム結晶では、結晶中に2種類の不純物を入れるだけで、ダイオードのようなデバイスが作れます。このような結晶を半導体結晶といいます。半導体結晶は不純物を操作するだけで、電子の流れる方向が決められるので、デバイス加工に大変便利です。両方向の半分、1方向にのみに電子が流れようにできる物質を半導体と定義できます。どうして世の中は抵抗にこだわるのか小生には理解できません。でも、科学は人間の考えたものですから、ケチをつけてもしょうがない。でも、どれほどこれに苦しめられてきたことか。

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