前のセクションで原子価電子は、原子核からの引力、電磁遮蔽効果、電子同士の反発、および軌道間の電磁相互作用に基づく作用によって影響されることを述べました。原子間結合では、これらの作用に基づく現象のほかに、二つの物理的現象が関係します。一つは、一つの原子が他の原子に接近するので、原子の軌道上の電子が他原子の原子軌道へ移動する現象、いわゆる電子移動です。もう一つは、二つの原子の原子軌道同士の電磁相互作用です。 原子価電子同士の相互作用を考慮して物質構造を推定してゆく理論としてPaulingらによる有名な原子価電子結合理論があります。彼の理論は有機化学などの合成評価に非常な威力を発揮しています。しかし、彼は軌道間相互作用を最外殻軌道同士の軌道の重なりで説明しているため、色々面倒なことが生じ、混成軌道の生成、孤立電子対の生成などの説明が難しくなります。 特に、金属原子同士の結合です。タングステンなどの金属の融点は非常に高いが、このような高い融点は、彼の理論によれば、金属原子同士の原子軌道の重なりで生じる電子対生成が強いことを暗示しています。 しかし、原子の電子配置でのべたように、金属原子は内殻からの遮蔽効果がつよいので、原子同士の間での電子対生成から高い融点をもつ金属を説明することはできません。さらに、金属中には軌道の重なりで表現できない伝導電子が存在します。伝導電子が結晶構造をはじめ金属特性に影響を与えていることは周知のことでありますが、かれの理論から、伝導電子が結晶構造に与える影響を評価することは、限りなく困難です。 上記問題の大部分は、電子移動を考慮することで合理的に説明できます。じつは、電子移動こそ化学結合を理解する上で必要不可欠な知識なのです。 混成軌道は電子移動を考慮することで一貫性のある説明ができます。また、金属中の伝導電子が電子移動過程で作られると考えると、金属結合機構および伝導電子発生は分かりやすくなります。電子移動抜きで化学結合を取り扱うから、固体物性が難しくなるのだといっても過言ではありません。 ここでは、これら二つの物理的現象(電子移動および電磁気相互作用)を述べ、これらをもとに、化学結合発生機構を述べます。また、これから導かれる伝導電子発生機構を述べます。 1.3.1結合形成の物理的解釈 1.3.1.1共鳴電子移動に基づく化学結合 1.3.1.2電磁作用に基づく化学結合 1.3.2共有結合 1.3.2.1未占有p軌道を介しての共有結合 1.3.2.2未占有d、f軌道を介しての共有結合 1.3.3金属結合 1.3.4イオン結合 1.3.5伝導電子 back next
上記問題の大部分は、電子移動を考慮することで合理的に説明できます。じつは、電子移動こそ化学結合を理解する上で必要不可欠な知識なのです。 混成軌道は電子移動を考慮することで一貫性のある説明ができます。また、金属中の伝導電子が電子移動過程で作られると考えると、金属結合機構および伝導電子発生は分かりやすくなります。電子移動抜きで化学結合を取り扱うから、固体物性が難しくなるのだといっても過言ではありません。
1.3.4イオン結合
1.3.5伝導電子