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1.3.6伝導電子

伝導電子とは、物質中に存在し、原子軌道で静的には表現されない物質中を比較的自由に動ける電子をいいます。先に化学結合はすべて未占有軌道を介してつくられると述べました。伝導電子の作成にもこの未占有軌道が重要な役割を演じます。

未占有原子軌道を介しての占有原子軌道同士の重なりから生まれる結合に共有結合があります。この結合に関与する電子は占有軌道軌道に存在し移動しないはずですから、物質内を自由に動ける伝導電子は作られません。ところが、金属結合およびイオン結合では未占有軌道に電子が流れ込みます。流れ込みによる電子移動過程こそ伝導電子の発生には不可欠な条件といえます。しかし、単なる共鳴電子移動では伝導電子を発生しません。

実は、伝導電子の発生の大切な条件としてもう一つ結晶構造が挙げられます。結晶構造とは立体的な構造をもったものをいいます。上で、物質の中で比較的自由に動ける電子を伝導電子といいました。これを化学結合の観点からいうと、イオン結合でのべたように、電子移動に伴い原子が結合先を次々と変えるから、あたかもその結合電子は原子から独立して自由に動けるように電子のように見えるといえます。この移動性結合電子を伝導電子といいます。偶然性というか統計的というか要するに分けの解らぬ発生源では伝導電子は生まれようがありません。世の中では、原子から放っておかれた宙ぶらりんの状態にある電子を伝導電子と呼んでおりますが、この定義は、伝導電子に失礼でしょう。伝導電子は結晶構成に関与しており原子から独立しているとは言えません。物質の中を伝導電子が動けるには、上でのべたようにそれだけの理由があるのです。立体構造は移動性結合電子作成を阻害する構造的制約を除きます。立体的構造をもつ結晶が伝導電子が生まれるにはきわめて有利であるといえます。

上記を銅、銀、金といった貴金属で確かめてみます。銅原子の内殻電子からの遮蔽効果は銀および金と比べて小さいことはよく知られております。これらよく知られた実験事実は、電子放出能力が銅、銀、金の順序で高くなることを意味します。また、これら金属結晶の硬さを比べた場合、金が最も柔らかいことはよく知られております。硬度は原子同士の結合強度に比例します。前の項で述べたことを利用すると、結合強度は、これら金属原子の未占有p軌道と他の金属原子の占有s軌道の重なりから決定されます。銅、銀、金の原子の電子配置は原子の項で述べました。金の柔らかさはf軌道電子からの遮蔽効果によってもたらされます。電子移動性は軌道の重なりの大きさに比例しますので、これら硬度の変化から、電子移動性は、銅、銀、金の順序で小さくなるといえます。特に、金の電子移動性は銀よりかなり小さくなる。電気伝導性は原子の電子放出能力および電子移動性の積から求まりますので、以上から、電気伝導度は銀が一番高いといえます。

金属の電気伝導性は定性的に求められ、上記推定値は実験事実とほぼ合致しております。この解釈は材料設計を極めてわかりやすいものにします。結合電子からみて余った電子が伝導電子になるなんていう説明は実はとんでもないことなのです。実は、このような簡単な問題(金属の電気伝導性)ですら、自由電子モデルを用いた最新の固体物性論では明瞭に述べることは難しいのです。なぜ難しいのかの理由は簡単です。自由電子モデルは残余電子の考えに立っております。したがって、このモデルでは伝導電子の行く先の性質が不明です。不明である以上、各金属の電気伝導性の差を求めることは定性的にも極めてむずかしいことであるといえます。
余談:伝導電子についてはこれまで沢山の書籍があり、立派な先人がいろいろ説明されております。ここでは、小生はこれまで先人達によって発見された現象など間違いだとはいっておりません。ただ現象の理論的解釈については改良の余地があるのではないだろうか?
伝導電子を説明するために用いられるエネルギー準位の縮帯は、原子軌道の他に分子軌道についての知識も必要とされます。分子軌道については次の項で、最も基本的な物質中の伝導電子の特性、化学ポテンシャル、エネルギー準位縮帯などは分子および結晶、電子構造の項でのべます。電気伝導に関する諸々の効果など(例えば、量子効果および石墨などで見られる層状効果など)については電気伝導の項でのべます。
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